境界科学 研究室
教育理念
10年後を見据え自ら仮説実証を続ける科学者の育成
世界を動かすのは、一部の天才や大企業、有名大学という組織だと思っていませんか? 実は、今日の科学技術の多くは、ごく普通の個人の小さな疑問やささやかな向上心から生まれました。それを世界に普及させる過程では、大きな組織は確かに必要かもしれません。しかし、その仕事の根源を支えるのは、「個人の小さな力」です。私たちの研究室では、10年、100年先を見据えて自らが課題を発見し、解決策を提案し、それを実証することに挑み続けられる科学者の育成を目指しています。「〇〇会社や▲▲大学に勤めているから凄いね!」ではなく「■■をしたのは君なの?いい仕事だね!」という科学技術者を目指したいたい方、お待ちしています。
良い仮説実証を支える三要素
良い仮説実証を続けるためには、① 学習、② 越境、③道徳の三つを認識し、育て、使いこなすことが必要だと考えています。研究室の早期配属では、座学でこれらの知識を習得します。本科5年生では、毎日の朝ミーティングで実験を通じて仮説実証力の使い方を練習します。教員との対話だけでなく、進捗に応じて学会発表や共同研究、論文投稿を通じて、他大学の研究者や学生への発信力をつけていきます。
01. 学習
人間と他の生物との違いは何か。紀元前の中国の思想家・孔子と老子は言いました[1, 2]。もの事に秩序を当てはめて理解すること、その秩序を変革して進歩させること。この過程を「学び」と呼び、これを繰り返して無意識にすることを「習」と呼び、今日の「学習」という概念が定着しました[3]。学習とは使い古された概念でいるようでいて有史以前から消えることなる受け継がれており現代の社会を支える必須の概念です。1600年頃にこの秩序観にある概念を加えたのが「自然科学」です[4]。この一連の流れを復習し、本科で習った化学の座学や実習に結び付け、研究課題へと応用します。
[1] 安冨 歩 、「超訳 論語」2012, ディスカヴァー・トゥエンティワン
[2] 安冨 歩 、「老子 あるがままに生きる」2018, ディスカヴァー・トゥエンティワン
[3] 今井むつみ、「学びとは何か」2016, 岩波新書
[4] 朝永振一郎、「物理学とは何だろうか」1979、岩波新書
02. 越境
私たちはいずれかの社会に属して生活しているために、個人だけでは生きていけません。個人の利益や幸福を考え、それを隣人や仲間、その他の人と相互作用を通じて拡張していく術を学ばなければなりません。このことについても前述の孔子は、学習に根差した関係こそが社会秩序の根源だと述べており、近年の社会科学でも変わらず認識されています[1]。年齢、性別、人種、国、地域などあらゆる属性の垣根を超えて、利益や幸福度を最大化する視点と行動力を身に着けることを目指します。
[1] 岸見 一郎 、「嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え」2013, ディスカヴァー・トゥエンティワン
03. 道徳
三つ目の道徳は、学習と越境の方向性を決めます。道徳というと小学校の授業で出てくるような守らなければならない人としての決まり事のように思えませんか? 道徳の本来の意味は、孔子の論語を要約すると、① 秩序を当てはめて利を作り出し、② それを長期的視野で積み上げていき、③ 最終的に自分の利を超えて社会に貢献できることを指しています[1]。01の学習に当てはめるとと①は局所的な合理性、②は巨視的な合理性、③は局所的な非合理性に基づく長期的な非合理性だと言えます[2]。02の越境の人間関係に当てはめると、①は直接的な利益で結ばれた関係(仕事など)、②は緩やかな利益で結ばれた関係(友達や先生と学生)、③は主語が私たちで結ばれた関係(夫婦や家族)です。長期的な視野に基づき、日々の合理的、非合理的な行動を積み上げる視野の修得を目指します。
[1] 童門 冬二、「二宮尊徳の経営学」2013、PHP研究所
[2] 楠木 建、「ストーリーとしての競争戦略」2010、東洋経済新報社