ソフトオプト界面工学 研究室
教育理念
「自律秩序」と「自立世界観」に基づく研究力で
10年先の社会の課題解決に取り組める科学者の育成




自律秩序:研究基盤
● 熱意
「よりよく生きる原理原則とは何だろうか?」 この深遠な問いに対する答えをDNAを参考に考えていきましょう。一つ目の答えは、宇宙のエントロピー増大則です。すべての物質やエネルギーは、高い方から低い方へと流れます。DNAは、ある活性な化合物が大量にある環境で、化学反応を促進します。もし、原料や周囲の高温環境がなければ、DNAは生命を決して生み出せません。何かが「潤沢」に存在すること、もしくは「枯渇」すること。これこそが生命の開始点であり、我々の行動力の源だと言えるでしょう。我々個人について考えると、才能や環境に恵まれること、劣等感や不遇な経験があること、これら「不均衡」が我々をより良い生き方へ駆り立てる根源的な力になります。みなさんは、どんな「不均衡」を感じて生きてきましたか?、どんな「不均衡」を埋めて生きていきたいですか?
● 秩序
エントロピーが高い方から低い方に流れるとき、ただの化学反応で終わることもあれば、DNAのように生命を生み出すこともあります。この違いは何でしょうか? その答えは、「法則」や「秩序」です。DNAは、化学反応によって自分を複製することができる、数少ない化学物質です。ある原料が反応するときに、様々な可能性がありますが、DNAは、自分と同じ化学構造を「正確に」、「早く」、「繰り返し」作ることができます。私たちが数学や物理を重要だと考えるのも、ある事柄が起こることを「正確に」、「早く」、「正確に」教えてくれるからです。化学物質や物理法則は、自動的にこの性質を兼ね備えています。しかし、我々が何か良い秩序を扱うには、訓練や学習が必要です。小学生が百マス計算を解くこと、野球部がバットを何百回も振ること、友達同士で何度も同じ話題を話しあうこと、これらは、全て、ある秩序を「正確に」、「早く」、「繰り返し」使いこなすためにあります。良い秩序に出会うこと、その秩序を使いこなすこと、この二つが秩序観では重要です。
● 変革
世界には多様なDNAが存在します。もし、「早く」、「正確に」、「繰り返し」ができるDNAが生き残ったのなら、その最も優れたDNAが残り、他のDNAは駆逐されても良いはずです。実は、DNAの生存戦略の最も大切な要素は、「早く」、「正確に」、「繰り返し」ではありません。それは「突然変異」です。DNAは、ときどき、自己複製に失敗します。その失敗作は、親のDNAとは一部異なる塩基配列を有します。通常は、この失敗はDNAの生存に不利に働きます。しかし、ごくまれに、その失敗した塩基配列が、DNAの生存上有利に働くことがあります。ミトコンドリアDNA、目の獲得、二足歩行の獲得・・・これらは、長い年月を得て、DNAが適度に失敗したことと、適者生存で淘汰が進んだことで得られた結果です。我々が父親と母親から生まれるのも、この突然変異を意図的に起こそうというDNAの失敗作から生まれています。自己複製だけなら、雌雄生殖よりも分裂生殖の方が、DNAの複製率は高いからです。ある秩序を「正確に」、「早く」、「繰り返し」使いつつも、
その秩序を「変異」させることが、生存戦略上大事だと言えます。
[1] リチャードドーキンス、「利己的な遺伝子」2018, 紀伊國屋書店
[2] 伊賀 泰代、「生産性」2016
自立世界観
深い世界観
自律秩序、秩序を変革し続けることが、研究力ひいては生きる基盤になります。我々の寿命に限りがあるために、自律秩序を偶然に任せるのではなく、ある方向性を持つことが必要です。その自律秩序の方向性、実現したい世界観を「自立世界観」と定義します。本研究室では、先人の自立世界観を読書から学習し、自身の自立世界観の育成に繋げたいと考えています。深い世界観のヒントは、「俯瞰」、「非合理」、「非常識」、「長期」、「非効率」です。4年生の仮配属では、下記の書籍を任意で読みます。
1. 物理学とは何だろうか?(科学)
「科学は不変の真実であるもの」と誤解されています。大学生や高専生も教科書や先生の言葉を正しいと信じているのではないでしょうか。しかし、科学の真の姿は、「思考 ≠ 科学」という姿勢からすべてが始まります。「科学 = ●●」を知るための唯一の書。1980年の高校生向けに書かれた本ですが現在でも通じる名著。
[1] 朝永振一郎、「物理学とは何だろうか」1979、岩波新書
2. 学びとは何だろうか?(教育)
「親や先生など先人の言うことを受け入れること」を学びだと誤解されています。しかし、僕たちの幼少期の学びの概念すら知らないとき、学びに必要な言語や行動などをどのように学ぶのでしょうか? 学びが実はとても能動的な態度から始まることを知るための書。今井さんの著書は現代心理学から、安富さんの著書は紀元前の論語から違った観点で学びの重要性を紐解きます。
[1] 今井むつみ、「学びとは何か」2016, 岩波新書
[2] 安冨歩、「生きるための論語」2012, 筑摩書房
3. 競争に勝ち抜くためには?(経営学)
科学的に正しいことが経営や軍事上は役に立つことは少ない。事象が複雑怪奇に絡み合って、法則から次の一手を予測するのが困難だからです。しかし、地政学は述べます。複雑怪奇だからこそ、不変の原則に立ち返り、原理原則と現実を繋げるのが重要だと。経営や軍事に見る科学を超えた不変の原則とはいったい何だろうか?
[1] 楠木健、「ストーリーとしての競争戦略」2010
[2] エドワードルトワック、「 エドワードルトワックの戦略論」2014
4. 組織が有効に働くには?(経営学)
研究開発、工場、営業、事務など我々は複数の人間が組織を作って、個人ではできない仕事を成し遂げています。より良い組織を作るためには、個人の資質が高いことが求められるように思えます。しかし、大企業病という言葉があるように、「大きく優秀な組織 ≠ 優れた組織」とは限りません。優れた組織を作り、運営するには、組織の運用を決めている原理原則を知らなくてはなりません。「個人の頑張りが組織の効率を下げることがある?!」、「駄目な部門が組織の効率を決定する?!」など一見すると非常識な考え方が科学的にもっともな原理原則に収束しています。元・物理学者が唱える組織論の名著。
[1] エリヤフ ゴールドラット、「ザ・ゴール」2001
[2] エリヤフ ゴールドラット、「 ザ・ゴール コミック版」2014
5. 食とは何だろうか?(栄養学)
我々は食べること無くして生存できません。「美味しいものを食べたい」、「身体によいものを食べたい」という高みを求める欲求から「生きるのに最低限の食べ物で良い」という効率を求める欲求まで様々です。しかし、飢餓を克服した現代において生活習慣病が蔓延しています。なぜ我々は食を満たしているはずなのに、食に振り回されるのか? 食の根源とはいったい何なのか? そもそもの健康とはいったい何なのか?生きる上で最も身近にも関わらず、最も無知な食について考える名著。ハンバーガーとフライドポテトの国から登場した食の根源と健康に必要な食習慣を提案する名著。
[1] ハーヴィー・ダイアモンド、「フィットフォーライフ」2006
6. 運動とは何だろうか?(体育学)
「上手く身体を使いたい」、「健康に過ごしたい」という欲求の元に私たちは日常生活とは別に運動に励みます。しかし、プロスポーツ選手や部活動など激しい運動を繰り返すほど身体が故障することが多いのも事実です。また、運動の才覚に恵まれないと、一生懸命努力しても、身体の使い方が上手くならないことも多いではないでしょうか。七類さんは、ダンスなど才能や感性の強い世界において、初めてその根源のリズム感を解き明かしました。単に解き明かしただけでなく、それをどのように訓練すれば良いかも述べています。この考え方はダンスだけでなく、音楽や他の運動にも通じる考え方でした。実は我が国の伝統的な運動法にもその要素が入っていました。世界と日本で考えられる運動の根源とは何だろうか?が詰まっています。
[1] 七類 誠一郎、「黒人リズム感の秘密」1999
[2] 真向法協会、「決定版 真向法」2004
7. 人間関係とは何だろうか?(心理学)
コミュニケーション力が大事と言われて久しい昨今。インターネットの登場で世界は急速に近くなり、人間と人間の情報的な距離は急速に近づきました。もちろん世界とも。一方で、世界は多様であることが共有され、個人個人の考え方が尊重されるようになりました。そんな中、人はどのようにコミュニケーションを取れば良いのか?、人はコミュニケーションをなぜ取らなければならないのか?人種のるつぼ、アメリカで生まれたアドラー心理学をベースにした答えがその中にあります。その答えは、二宮金次郎などが伝えてきた日本で古くから大切にされていた考え方にも通じます。
[1] 岸見 一郎、「嫌われる勇気」2013
[2] 岸見 一郎、「幸せになる勇気」2016
[3] 童門 冬二「二宮尊徳の経営学」2013
8. 国際化とは何だろうか?(国際学)
明治維新以降、鎖国による国の運営ができなくなり、我々は国際社会の中で生きなくてはならなくなった。特に、第二次大戦を契機に、アメリカを中心とした我が国への民主主義化が進められた。しかし、我が国の国際性はそれほど遅れていたのだろうか?欧米諸国の国際性や民主主義はそれほど進んでいたのだろうか? 当事国アメリカの元大統領とジャーナリストが語る「西洋の闇」。私たちアジア人が目指すべき真の国際社会とは何だろうか?
[1] ヘレン・ミアーズ、「アメリカの鏡・日本 完全版」2015
[2] ハーバート・フーバー、「 裏切られた自由 : フーバー大統領が語る第二次世界大戦の隠された歴史とその後遺症」2017