ソフト界面工学 研究室
教育理念
100年先を見据えて研究できる科学者の育成
未来へ繋がる研究をするために、下記の力を育成する。
● 自律学習:相互作用と改善に基づいた学びを継続できる力
● 自立推譲:他者と学習に基づいた信頼関係を築ける力
● 積小為大:大局観、中庸、非合理性、国民性に基づいて行動する力
研究室の標語(二宮尊徳)
遠くをはかる者は富み、近くをはかる者は貧す。
それ遠きをはかる者は百年のために杉苗を植う。まして春まきて秋実る物においてをや。故に富有なり。
近くをはかる者は春植えて秋実る物をも尚遠しとして植えず。唯眼前(たんがんぜん)の利に迷うてまかずして取り、植えずして刈り取る事のみ眼につく。故に貧窮す。
自律学習
社会秩序の根源は学習回路
私たちは、高等教育を考える上で「教育」と「研究」の本質は何だろうか?と毎日自問しています。今のところ、その答えは「学習力」だと結論を出しています。この結論は、人類の長い歴史を読み解くことから導かれました。それは約2500年前の春秋戦国時代の中国の思想家、孔子の思想です。
「子曰く、学びて時に之を習ふ。また よろこばしからずや」
[1] 安冨歩、「生きるための論語」2012, 筑摩書房
[2] 今井むつみ、「学びとは何か」2016, 岩波新書
論語は冒頭の大部分を使って「学習が何か」を定義し、「学習」を基盤とした人間関係が社会秩序の根本であると述べています。この学習の概念は上記の安富先生や今井むつみ先生の著書を引用すると、「外部との相互作用」と「自己改善」を何度も回すことで自身を成長させる状態だと定義されています(学習力の左図)。
この学習の回路を端的に説明すると、「収入」と「支出」の関係です。外の世界の複雑な情報(収入)を秩序で読み解く(支出)と複雑な世界を簡単に理解することができるようになります(利益)。この利益を投資に回して、観測や秩序の性能を高めます。そうすると、より複雑な世界の情報(収入)をより高度な秩序で読み解け(支出)、より簡単に世界を理解できるようになります(利益)。この秩序は古くは道具や言語でしたが、近年では「数学」や「物理学」が用いられるようになりました。より高度な数学や物理を使えるほど、より複雑な世界を読み解けるために、私たちの高等教育でも必ず、言語、数学、物理は初等教育から訓練を課されます。
[3] 朝永振一郎、「物理学とは何だろうか」1979、岩波新書
学習の回路は、例えだけでなく、実生活の金銭の収支などにも用いることができます。お金だけでなく、時間、エネルギー、資源のすべてについて、収支と投資を繰り返すことで、私たちはより豊かな経済活動を実現できます。
[4] 伊賀 泰代、「生産性」2016
自立推譲
学習回路に根差した人間関係
私たちは学習回路の動作によって生まれる秩序や利益を本質的に好むように進歩してきたました。それは自分と他者の人間関係にも及びます。家族、親子、親戚、友人、同僚などコミュニケーションの範囲が広がると、一人では達成できない理解や仕事を成し遂げることができるからです。逆にいうと一人で得られる知識や仕事ではこの世界を生き抜くことができないという歴史の証明を裏付けています。木村先生や岡本先生の著書を読むと、コミュニケーションの質が学生を優等生にも犯罪者にも変える重要な要素であることが分かります。
[1] 木村泰子、「みんなの学校が教えてくれたこと」2015, 小学館
[2] 岡本 茂樹、「反省させると犯罪者になります」2013, 新潮社
学習に基づくコミュニケーションの前提は、各個人が学習の回路を開いていることです。そのうえで、アドラー心理学の「課題の分離」に則って学習の回路を発揮できる距離感を保ち、「交友の関係」に則ってお互いの学習の段階に応じた学習の利益を投資し合う関係を築いていくことになります。
[3] 岸見 一郎、「嫌われる勇気」2013, ダイヤモンド社
研究室では、研究で得られた新しい知識や考え方を共有し合う、実験の工夫を共有し合うなどがこれに当たります。この関係を築く力がやがて、社会で求められるリーダーシップの発揮に繋がります。
[4] 伊賀 泰代、「採用基準」2012
積小為大
時空間を超えた学習回路
私たちは、空間、時間、資源など限られた世界に存在しています。世界の変化や競争にさらされていると、目先の好奇心や利益を追いかけていると生存確率が下がることが多くあります。例えば、目の前の算数の勉強をサボると、将来の仕事の選択肢が狭まるような感じです。
では、この世界で生存率を上げるためには、どうすれば良いのでしょうか?歴史学者、地政学者、科学者、政治家、思想家などが様々な叡智を集めて得た結論が「時空を超えた学習回路の発現」です。
私たちは、文字と言語を駆使することで、3000年以上昔の思想家の考え方に触れることができます。私たちは100年後には生存していませんが、子供達や子孫のために、利益を減じてでも仕事に取り組むことができます。このように、生物としての寿命や認識できる時空を超えた範囲での利益や叡智の増加に取り組むことが、競争力に繋がり、生存力に繋がります。一見すると一人で損をしているように感じますが、このような考え方に共鳴する人は必ず存在し、支援してくれたり、共に歩んでくれます。この時空を超えた学習感を共有した関係で結ばれることこそが、最大のコミュニケーションであり、最上の仕事だと言えるのではないでしょうか。
[1] エドワードルトワック、「 エドワードルトワックの戦略論」2014
[2] 楠木健、「ストーリーとしての競争戦略」2010
[3] 岸見 一郎、「嫌われる勇気」2013、ダイヤモンド社
[4] 新井和宏「投資は"きれいごと"で成功する」2015、ダイヤモンド社