ソフト界面工学 研究室
ソフト工学
~ 「境界」を利用した科学技術の創出 ~
科学技術は対象を要素分解しながら発展してきました。例えば化学なら「有機」と「無機」のように。では有機と無機の間に位置する物質は「有機」と「無機」から予測できる性質になるのでしょうか? 多くの場合は、そうなります。しかし、例えば高分子のように、「有機」と「無機」からだけでは予測できない性質が現れます。このような物質の特異点は高分子以外にも「固体」と「液体」の中間 に現れるソフトマテリアルや結晶成長など多く見られます。本研究室では、この自然界の境界領域で発現する科学技術を用いて様々な社会の問題解決に取り組んでいます。




結晶成長:沈殿と溶解の境界
有機半導体の結晶印刷法
有機エレクトロニクス分野ではフレキシブルデバイスの性能向上のために有機半導体の単結晶を作製する技術が注目されていました。しかし、分子が単結晶を形成する結晶成長過程をブラックボックスにして実験条件を試行錯誤に最適化していたので再現性や制御性が悪い欠点がありました。本研究室では、まず分子の沈殿-溶解の相図に基づいて結晶成長条件を探索し、有機半導体は「溶液表面と溶液内部で結晶成長条件が違う」という極めて重要な知見を世界で初めて報告しました [1]。この知見に基づいて結晶成長を行ったことで高い制御性と再現性を実現しました [2]。この技術はフレキシブルデバイスの実用化に大きく貢献できる画期的な技術です。

近赤外光(生体透過):可視光と赤外線の境界
遠隔操作マイクロマシン
医療分野では生体深部で自由自在に操作できる医療用マイクロマシンの開発が求められています。生体深部を露光できる近赤外光を炭素材料で熱に変換し感温性高分子ゲルを動かすソフトアクチュエータが開発されてきました。しかし、光走査方式という近赤外光を当てる位置でアクチュエータの動きを制御するために、ミリメートルサイズより小さいアクチュエータを動かせないのが問題でした。本研究室では、吸収波長の異なる希土類光熱変換材料を感温性高分子ゲルに組み込み波長選択方式アクチュエータを開発しました。光のスポットサイズよりも小さいアクチュエーターを波長を切り替えるだけで複数の動きを制御できることに世界で初めて成功しました[1-3]。この技術は医療用マイクロマシンの実現に貢献できる画期的な技術です。

近赤外光(不可視):可視光と赤外光の境界
head-up透明ディスプレイ
フレキシブルデバイスの登場で乗用車や航空機に搭載するヘッドアップ透明ディスプレイの需要が高まっています。しかし、既存の有機半導体や金属を利用した集積回路は可視光の透過率が最大50%程度と低いのが問題でした。本研究室では、電子回路を光回路に置き換えることで、集積回路の可視光の透過率の最大値を90%まで引き上げる試みを行いました。ポリマーアレイ導波路格子アップコンバージョン発光デバイスを構築しフォトンマトリックス方式という新原理で駆動する透明ディスプレイデバイスの開発に成功しました。[1] 将来はポリマーアレイ導波路格子デバイスのサイズを低減することでヘッドアップ透明ディスプレイの実用化に繋がると期待できます。

ナノ粒子:分子とバルクの境界
焼成フリーリソグラフ
フレキシブルデバイスの有機半導体層を無機材料に置き換えることができればデバイス寿命を大きく伸ばすことが可能です。しかし、既存の無機材料の多くは500℃以上の焼結を必要とするためにフレキシブル基板が分解するという問題がありました。本研究室では、無機材料のナノ粒子膜を製膜する手法を提案しました。ナノ粒子を合成時に焼結を行うために、ナノ粒子を製膜するのは大気中室温という穏やかな条件で製膜が可能になるからです。光リソグラフィー法を利用して希土類ナノ粒子の薄膜をフレキシブルプラスチック基板上に作製することに世界で初めて成功しました。[1] この技術はフレキシブルデバイスの超寿命化に貢献する画期的な技術です。


エマルション:溶液と相分離の境界
ソフト液相吸着法
有機エレクトロニクス分野において有機半導体デバイスや金属配線を印刷する技術が注目されていました。既存のインクジェット法はマイクロメートルサイズのパターニングが限界ですので、光リソグラフィー法で作製した濡れ性パターン化テンプレート上に溶液を塗布する手法が開発されました。しかし、濡れ性パターンのサイズが小さくなると、濡れムラや膜厚が薄くなる問題を解決できませんでした。本研究室では、濃厚インク溶液を分散させたエマルションを用いて塗るのではなく濃厚インク液滴を吸着させるソフト液相吸着法を開発しました。液滴が望む位置に自発的に吸着するために、塗り斑もなくかつ厚膜が形成できることを世界で初めて見出しました。
[1] S. Watanabe, Langmuir 2013, 29, 7743−7748.
[2] S. Watanabe, Colloid Surface A 2014, 443, 296−302.
学生時代の研究
~ 理化学研究所と産業技術総合研究所にて ~
学生時代に、国立研究所と大学の研究室を経験しました。
【学士】産業技術総合研究所(つくば)指導:阿部正彦、松本睦良
【修士】東京理科大学 (野田) 指導:阿部正彦、松本睦良
【博士】理化学研究所 (和光市)指導:松本睦良、和田達夫
母校の東京理科大学は学生数が多く、教員数、装置、場所が限られているために、よりよい環境で研究をしたかったからです。学問は有機化学、物理化学、化学工学と興味の幅が広かったので、学士~修士はコロイド界面化学研究室、博士は有機エレクトロニクスと境界領域にまたがる分野に結果的に落ち着きました。



KPFM:分子間力とMEMSデバイスの境界
複合その場ナノ観察
有機エレクトロニクス分野では有機太陽電池や有機電界効果トランジスターの性能が向上していました。これはナノメートルサイズの緻密な材料制御によります。しかし、ナノメートルサイズのデバイスの動作状態における観察法がなく、デバイス動作中の電気物性の評価ができませんでした。私たちは、走査型ケルビンプローブフォース顕微鏡と分光光照射装置を組み合わせることでバルクヘテロ型太陽電池の表面電位アクションスペクトルを観察する手法を開発することに成功しました。
[1] S. Watanabe, ACS Appl. Mater. Interfaces 2014, 6, 1481−1487.


気水界面:不溶、吸着、溶解の境界
混合LB膜の相分離制御
半導体分野ではリソグラフィー技術の進歩で集積回路のサイズがマイクロメートルからナノメートルに差し掛かっていました。しかし、可視光の回折限界に達するために、ナノメートルサイズの集積回路の作製が困難でした。私たちは、気水界面に形成する分子超薄膜中の相分離構造に着目しました。超薄膜面内で2種類の両親媒性分子を相分離させ、これを鋳型にすることで機能性材料のナノパターニングに世界で初めて成功しました。